高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
金井訓志・安達博文
クラウディア・デモンテ
森田りえ子VS佐々木豊
川邉耕一
増田常徳VS佐々木豊
内山徹
小林孝亘
束芋VS佐々木豊
吉武研司
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伊藤雅史VS佐々木豊
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原崇浩VS佐々木豊
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佐野紀満
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坂本佳子
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山口晃vs佐々木豊
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'Round About

第48回 佐野紀満

一見「可愛い」「楽しい」「明るい」アートに見える佐野紀満の作品は、確実な日本画の技巧を根底に持ち、現代美術の手法を内在化させる筋の通った絵画だ。抽象、アクリル、大作といった手法が若手の間で主流になっている現在に、具象、伝統画材、小品を丁寧に制作する佐野の仕事には張り詰めた緊張感が存在し、なおかつ実験的な方法論に満ち溢れている。

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●可愛いですね!どのような動物を描いているのですか?
佐野:兎・鴨・天竺ネズミ(モルモット)・フクロウ・山羊・等です。小動物や家畜が多いかもしれません。派手な角や模様を持ったものよりも誰もが知っている動物に興味を惹かれます。そのような生き物こそ、あらためて観察すると発見が多いです。兎なんて誰もが知っているし、頭の中にインプットされている生き物ですが、冷静に観ているとあの大きな耳なんて変ですよ。目も赤かったり。変な生き物です(笑)。

●確かに誰もが「イメージする」兎と重なります。イラストチックですね。
佐野:そうですね、たしかにイラスト的に見えるかもしれません。でも描かれているものは動物園で写生した姿形ですので、イラストとは違います。実際に見たものを絵にしているだけです。もしかしたら、意図的に生き物としての匂いを消すように描いているからそう見えるのかもしれませんが。
 
 
●ええ?!よく見ると確かに正確な形です。形のみならず、細部にも相当の配慮がなされていることに気が付きます。どのような画材を用いているのでしょう。
佐野:膠・岩絵具・水干絵具・墨・胡粉・和紙などです。


●完全な日本画ですね。すると花鳥風月の主題だと認識していいのですね。確かに動物だけでなく花も描かれています。花鳥以外の主題の作品はありますか?
佐野:花鳥風月という言葉には、ある特定のイメージや様式があるので余り意識しないようにしていますが、見た人がそのように感じるのであればそれに抵抗はないです。最近は植物や動物以外のモチーフを発表することはしませんが、以前から風景スケッチをよくしていますのでそれを主題とした作品を今後、描こうとは思っています。昨年、北宋書画を観る機会がありまして、山水画への興味も持ち始めたのもありますが。
 




●古美術を良く見ているのですね。どのような作品が好みですか?
佐野:ここ2〜3年は円山応挙・長澤蘆雪・伊藤若冲・長谷川等伯あたりが好きですが、日本美術全般を意識的に見るようにしています。やはり自分の制作や美意識のルーツと言うのは知っておかなければいけないことですし。

●しかし佐野さんの作品は、それらに比べて線が特徴的ですね。
佐野:最初に描いた線を残しておきたいので、それを避けるように彩色することが多いです。しかも私の場合は絵具が盛り上がるぐらい厚く彩色をするので線の部分が彫ってあるように見えます。「線の部分は彫ってあるのですか?」と聞かれたこともあります。技法的には「堀塗り」と呼ばれるようです。

●絵具の厚みは砂糖菓子にも見えます。色彩も淡く、バランスがいいですね。バックの処理が異なるのは気のせいでしょうか?
佐野:色彩に関しては落ち着いた色が好きですね。バックの処理に関してはいつも悩むところですが、なるべくモチーフに合った感じにするようにどの作品も有る程度は変えています。大きく分けるとしたら「絵具を塗り込んで背景を作る」のと「和紙の地を生かした背景」の2点に分けることができます。それとなるべく作品の「臭み」が消えるような背景の処理を心がけています。あまり「情緒的」にならないように。「無機質」であればいいなと。

●背景まで意識が行き届いているのですね。具体的に作品を見てみましょう。F30号の《視線》は、大きくて力強さを感じます。この作品に描かれている動物と植物は何ですか?

 

佐野:これは黒い山羊です。久しぶりに山羊を見ていたら、自分が思っていた「優しい気弱な草食動物」ではなく、むしろ「獣」、「怖さ」という印象を受けたのです。思わずスケッチブックと筆を手にしました。しかし、この「視線」という作品の主題は「怖さ」ではないです。むしろロマンチックな感じです。左上の花は百合、周りを囲んでいるのは吾木香(ワレモコウ)です。吾木香が画面に適度なリズム感を与えてくれればいいなと思い入れてみました。苦労した点は山羊が真っ黒だったので、ベタッと潰れないようどのように微妙な表情を出すかということでした。それと背景の処理です。絵具の層を厚くせずに落ち着いた感じにしたかったのですが、なかなか思うようにいかず大変でした。  
●確かに「怖い眼」をしているように見えますが、肢体が柔らかく、花が取り囲む視線の位置が独自の雰囲気を出していますね。《人見知り》のサイズはSMと小さく、色も暖かいですね。この作品を描く時に、どのような点に注意を払いましたか?
 
佐野:兎の後ろ姿に何とも言えない魅力を感じたので、描いてみました。それを秋明菊と組み合わせてあります。私はよく動物と植物を組み合わせますが、なるべく自由な発想で組み合わせる事を心がけています。先程も話しましたが、私の作品は絵具をかなり盛り上げたりしています。以前、俵屋宗達の《白象図》(養源院)を観た時に随分と絵具が盛ってある事に驚いたのですが、それが今でも目に焼き付いているからかもしれません。それと自分の感覚として絵具をさらっと塗ることが出来ないのです。画面、即ち和紙にしっかりと絵具がついた様にならないとどうも落ち着かないのです。そういう意味では技術的には工芸的な所を目指しているのかもしれませんが、それを絵画としての曖昧な面白さと、どのように結びつけていくのかが今後の課題の一つであると思っています。  
●なるほど、宗達《白象図》は絵具の盛り上がりのみならず、形も佐野さんの描く動物に似ていますね。すると狩野永徳の《唐獅子図屏風》等も頭に浮かんできます。これら古美術は空想の動物を描いていると言われていますが、実は「写生」していたのかも知れません。「工芸」の話がでました。確かにボックスの作品を見るとそう思いますが、これら作品群は「工芸的」というよりも、「絵画性」を感じます。つまり、「絵画としての曖昧な面白さ」の意味が気になります。  
佐野:実は現代美術からの発想なのですよ。と言いましてもロックを聞くような気軽な感覚で気に入ったものを良く見ていました。あの現代美術特有な、無機的な割り切った感覚というのが私の美意識の一つの基準になっているのは間違いありません。またそれとは逆に、祖母が趣味で俳画をやっていたので小さい頃からそのようなものに囲まれてきたことも自分の作品に影響を与えているとは思います。

●徹底した日本画の技術と「無機的」という客観性が、佐野さんの作品を単なる「可愛い」だけのものにさせないのでしょうね。どのような作品を好むのですか?
 
 
佐野:リチャード・ロング(Richard Long)・アンディー・ゴールズワージー(Andy Goldsworthy)などが好きでした。他にも色々見ていましたがちょっと思い出せません(笑)。所謂「アースワークス」が好きでした。今思うと、アースワークスの中に感じたアミニズム的なものに魅かれていたのかもしれません。それは日本画にも通じるものだと思っていますし。

●現代美術からアミニズムを読み取り、日本画の歴史性と重ねる。間島秀徳さんも「革新的な表現を求めることこそ伝統である」と仰っていました。「日本画回帰」の現代の動向の中で、とても貴重な発想だと思います。
佐野:やはり自分の文化的ルーツをしっかり認識して、それをかみ砕いていく努力は必要ですし、それは今後も意識していきたいです。
 
(T-BOXにて取材/宮田徹也)  

 

佐野紀満氏 佐野紀満(さののりみつ)
1973年 東京生まれ
1999年 全国公募 青垣 2001年日本画展入選
2000年 武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻
2000年 日本画コース修了
2002年 「第20回多摩の美術公募展」多摩の美術展賞受賞
2003年 「Happy New Year's Exhibition 2003」
2003年  Gallery&Cafe 十字星(淵野辺)
2003年 「第21回多摩の美術公募展」
2004年 「Pyxis展」 アートスペース羅針盤(京橋)
2004年 「山中湖の新しい風」展 山中湖美術館
2005年 「羅針盤セレクション2005 hope」展 アートスペース羅針盤(京橋)
2005年 「迷宮展  part2 」 ぎゃらりーパステル(南越谷)
2006年 「羅針盤セレクション HOPE 2006 −様々なニホン画−VOL.2 」
2006年  アートスペース羅針盤 (京橋)
2006年 「佐野紀満展」アートスペース羅針盤(京橋)
2007年 「 HOPE 羅針盤セレクション 日本画選抜展」 アートスペース羅針盤(京橋)
2007年 「常設展 日本画」  T-BOX (東京・八重洲)
2007年 アトリエケチャップカンパニー企画展 「LOVE ART!展」
2007年  プロモアルテ・ギャラリー(青山・表参道)
2007年 「佐野紀満展」 T-BOX(東京・八重洲)
HP:http://www5f.biglobe.ne.jp/〜norimitsu/