高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
金井訓志・安達博文
クラウディア・デモンテ
森田りえ子VS佐々木豊
川邉耕一
増田常徳VS佐々木豊
内山徹
小林孝亘
束芋VS佐々木豊
吉武研司
北川宏人
伊藤雅史VS佐々木豊
岡村桂三郎×河嶋淳司
原崇浩VS佐々木豊
泉谷淑夫
間島秀徳
町田久美VS佐々木豊
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諏訪敦×やなぎみわ
中山忠彦VS佐々木豊
森村泰昌
佐野紀満
絹谷幸二VS佐々木豊
平野薫
長沢明
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奥村美佳
入江明日香
松永賢
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三瀬夏之介
佐藤俊介
秋山祐徳太子
林アメリー
マコト・フジムラ
深沢軍治
木津文哉
杉浦康益
上條陽子


'Round About

第54回 入江明日香

銅版画を主体にコラージュで作品をつくりあげる入江明日香さん。彼女が生み出す美しい色彩のタブローを見ると、銅版画のもつ表現力のすごさを改めて知らされる思いがする。作品の画面の中には静かに生命力をたたえる動・植物が見え隠れし、ときにそれは浮かび上がり、ときに解け合う。そうした作品たちの様子が、とても刺激的だった。

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●今回で4回目の個展となりましたが、毎回、変化がみられますよね。例えば、以前はもっと抽象的だったのが、モチーフがすごくはっきり出てきたり、色彩もずいぶん違ってきています。
入江:確かに、だんだん形がはっきりしてきたと思います。植物も動物も、細かくリアルに描くようになってきました。それと、色彩。色彩はだいぶ変わりました。これまでは原色と蛍光色のピンクとかオレンジといった明るい色を中心に使っていたのですが、今年からは日本古来の色彩である萌黄色や二藍、紺青といった色を使うようになって、自分でも「ずいぶん変化したな」と思っています。昨年の個展は、それまでのように原色や蛍光色をふんだんに使うのではなくて、ギリギリまで色を少なくして描いてみよう、とやってみたんですね。そうしたら、真っ白な感じの作品が多くなって、それはそれでよかったのですが、色が少ないと「さみしいね」という声もあって、自分でも「もう少し、色彩を考え直してみよう」と思いました。それで、今回の個展では、これまでと違う感じの色を意識して制作してみました。

●変化をしたことには、何か理由があるのでしょうか? テーマが変わってきた、とか。それとも、自分の中では、それほど違ってきているとは思っていない?
入江:確かに、2、3年前の自分の作品と比較してみると「全然違うな」って思うんですけれど、作品をつくるときの姿勢や、テーマは変わっていないと思います。ただ、何か新しいことをして、新鮮さを自分に与えないと描く気が起きないというか……ある程度同じことをやってくると、自分の作品なのになんとなく見飽きたというような気分になってしまうことがあるのです。だから、ちょっと新しい色を、とか、今まで描いていなかった動物を、などと少しずつ新しいものを採り入れてきたのですが、その結果、絵が変わってきている、というふうに感じられるのかもしれませんね。
 
●そうした変化について、もう少しさかのぼって、銅版画を始めてからこれまでを振り返って考えると、いかがですか?
入江:大学2年生で銅版画を専攻したのですが、そのときは銅版画の重たい、しっとりとした黒の色が好きでした。大学4年生まではずっとモノクロの銅版画を制作していたのですが、当時は今とテーマも違っていて、今のテーマを例えば「生」とするなら、昔は「死」をテーマにしていたんですね。同じ植物を描いていても、今は生き生きとした瑞々しいものを描いていますが、昔は「枯れた・朽ちる・腐る」といった真逆のテーマでした。

●「枯れた・朽ちる・腐る」というテーマは、今の作品からは想像がつかないですね。
入江:そうですね(笑)。大学院に入るころに、一版多色刷りという技法に出合って、それから色を使うようになったんです。
 
●色に出合ってから、現在のスタイルに向かっていくわけですね。コラージュを始めたのは?
入江:コラージュを始めたのは、大学院の2年生ごろですね。それは、サイズの問題が発端なんです。銅版画はプレス機に通して制作しますが、大学にある一番大きいプレス機で、150号とか200号とかの大きな作品をつくろうとしても、刷った紙をツギハギすることになるので、画面がどうしてもきれいに見えない。ツギ目のところで絵が切れて見えてしまって、1つの作品として見られないんですね。それで、「これはどうしようかな」と思っていたときに、それまでに刷り損じたものやツギに失敗したものを溜めていたのを見て、「思い切って、それらを全く別のパネルに貼ってみよう!」って思いつきました。それで、切って貼って、切って貼って、さらにはアクリルとか水彩、鉛筆やペンといったものも使ってコラージュ・ドローイングをしてみたのが最初でしたね。
 
●そのやり方で、思うような作品ができるようになったわけですか。
入江:そうですね。紙は、版画の紙だと厚みがあるので私には扱いづらく、薄い紙を探して韓国まで行ったり、和紙を使ってみたりしました。また、銅版画で使う雁皮紙も使います。色については、私の持っている銅版画のインクは色数が限られているので、蛍光色や明るい色をつくるために油絵の具を少し混ぜてみたりして、色数も増やしました。あとは、もともと面相筆などで描き込む作業が好きだったので、コラージュした上に筆で描き、最後は胡粉を塗って作品を仕上げて……そんなふうに、いろいろなことを試みて、今のような感じの作品になってきました。
 
●色に関しては、イメージするところがあって「この色をつくってみよう」という感じですか?
入江:そういう場合もあります。ただ、そこが版画の面白いところの1つなのですが、版の上にのせたときの色と、紙を置いてプレス機を通して刷ったときの色が全く予想と違うことがあるのです。例えば、1回刷ってその色を使うときもありますが、最初に絵の具をたくさんのせておき、それを何回か刷って薄くなったときの色を使うときもありますし。あるいは、自分で腐蝕を施した版に絵の具を詰めて刷ったときにも、「ああ、こういう感じになるんだ」って、いい意味で裏切られることもあります。
 
 
●色もそうですが、余白の使い方が印象的ですね。配置の意図というか。
入江:確かに、それは考えますね。作品をつくるときには、横長なのか正方形なのか、どういう画面にどんなモチーフを入れるか、それをどの植物と組み合わせて、どんなふうに構成するか、余白をどうするかを考えます。それが決まるまでに、少し時間がかかるほうですね。そして、自分で作成した資料を見ながら直接、描いていきます。そのあとはもう、色をどんどん貼っていくだけです。
 
●そこからはスムーズに進むんですか?
入江:それが、色をだいたい7割くらい貼ったら、行き詰まるんです。そこで必ず1回、ピタッと手が止まっちゃう。「どの色を入れたらきれいに見えるか」とか、「ここに赤を持ってきたら、うるさすぎるかな」とか、自分の中でごちゃごちゃと考えるんです。でも、ずっと考えていても、時間ばかりが過ぎてしまって手が進まないので、そういうときは気分転換に違う作品をどんどん進めていきます。そうすると、ふと「あそこは、青にしておこう」などと浮かんでくるので、また前の絵に戻って。そんな感じなので、いつも4、5点を同時進行していますね。和紙の地の色を基調とした作品をつくっているときは、例えばもう1つは真っ赤な作品を、と必ず違うタイプの絵を描くようにしています。
 
●今回、一番苦労した作品はどれですか?
入江:この100号の作品ですね。モチーフから何から、描き出すまでがなかなか決まらなくて、そのあとも、色をどうしよう、とか、ここの色がちょっと多すぎたかな、とか、そういう感じで消したり描いたりする作業が多くて……。結局、完成したあともずっと悩んで、「これ、出品していいのかな」って迷った作品でしたね。でも、結局、2週間の個展期間中で、「いいね」と言われるのが、これでした。自分ではあまり自信がなかったのですが、皆さんに「これがいいね」と言われたりするので、そんなものなのかな、って。私としては、この絵を見ていると、制作しているときの自分の姿、行き詰まってボーッと座っている姿を思い出してしまうのですが。

●この深い青の感じがこれまでとは違っていて、確かに印象的な作品でした。あともう1つ、印象的だったのは作品の配置の仕方でした。エントランスから順に、自然な流れが生まれているというか……。
入江:それも、考えますね。私は、展覧会のお話をいただいたら、まず最初に展示する部屋の見取り図を描くんです。実際に画廊にうかがって、そこでの作品の見え方を考え、シミュレーションして、撮ってきた画廊の写真をじっくり見て考えます。「ここに100号を2つ並べて、次にこれを置いて、こういう流れにして。手前の壁面には、こう並べて……」と、見取り図にしていく。これが決まるまでが長いかもしれません。とにかく、自分の作品が展示をする空間に違和感なく溶け込むか、ということを考え出すと、見取り図がないと不安になるのです。
 
 
●それは面白いですね。しかも、画廊全体を通しての絵の配置のバランスと、絵の中の余白のバランスとがあって。
入江:そうですね。ただ、それでも実際にギャラリーに来て配置をすると、シミュレーション通りにいかないこともあって、「やっぱり、この絵はこっちのほうがいいな」って思ったら変えます。そのときに、必要なら、隣にくるはずだった絵も変えますね。

●最後に、今後のご予定を教えてください。
入江:今年の秋に韓国(ソウル)で開催されるSIPAに出品させていただくのと、あとは、来年1月14日から19日に日本橋三越で、秋にシロタ画廊で、それぞれ個展を予定しています。今の個展が終わったら、ちょっとだけ休んで、次の制作に取りかかります。
 
シロタ画廊にて/取材:妹尾陽子)  
  入江明日香氏 入江明日香(いりえあすか)
1980 東京都生まれ
2004 多摩美術大学大学院美術研究科 修了
2005 平成17年度 文化庁新進芸術家国内研修員
1999 現在、日本美術家連盟会員、日本版画協会準会員

〈画歴〉
2004 第72回版画展 奨励賞受賞(東京都美術館)
2004 ふくみつ棟方記念版画大賞展 奨励賞受賞
2004 (福光美術館/富山)
 

 

2005 プリンツ21グランプリ展 グランプリ受賞
2005 (東和ギャラリー/銀座)

2005 第3回池田満寿夫記念芸術賞 大賞受賞(洋協アートホール/銀座)
2005 Seoul International Print, Photo&Edition Works Artfair(韓國/ソウル)
2006 収蔵品展021「素材と表現」(東京オペラシティー アートギャラリー/初台)
2006 「銅版画の地平|V−日常とその向こう」(ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション/日本橋)
2006 プリンツ21グランプリ展 併設展示(東和ギャラリー/銀座)
2006 CWAJ現代版画展 併設展「-伝統からの飛翔-」(東京アメリカンクラブ/麻布台)
2007 VOCA展2007(上野の森美術館/台東区)

〈個展〉
2005〜2008 シロタ画廊(銀座)<2006 シロタ画廊・番町画廊(銀座)同時開催>