高橋美江 絵地図師・散歩屋
窪島誠一郎「ある若い画家への手紙」−信州の二つの美術館から−
もぐら庵の一期一印
金井訓志・安達博文
クラウディア・デモンテ
森田りえ子VS佐々木豊
川邉耕一
増田常徳VS佐々木豊
内山徹
小林孝亘
束芋VS佐々木豊
吉武研司
北川宏人
伊藤雅史VS佐々木豊
岡村桂三郎×河嶋淳司
原崇浩VS佐々木豊
泉谷淑夫
間島秀徳
町田久美VS佐々木豊
園家誠二
諏訪敦×やなぎみわ
中山忠彦VS佐々木豊
森村泰昌
佐野紀満
絹谷幸二VS佐々木豊
平野薫
長沢明
ミヤケマイ
奥村美佳
入江明日香
松永賢
坂本佳子
西村亨
秋元雄史
久野和洋VS土屋禮一
池田学
三瀬夏之介
佐藤俊介
秋山祐徳太子
林アメリー
マコト・フジムラ
深沢軍治
木津文哉
杉浦康益
上條陽子
山口晃vs佐々木豊
山田まほ
中堀慎治


'Round About

第55回 松永 賢

バタイユ的エロティシズム、グロテスク、レトロ感覚といった要素を含みつつも図が複雑にならず分かりやすさを重要視する現代の「絵画」は、漫画、アニメーションといったサブカルと区別がつかないほどイラストチックなキャラクターが主題となる場合が多い。松永賢が描く少女達と動物の瞳から放たれる光は見る者を包み込む点で、これらと一線を劃すのである。

※画像はクリックすると拡大画像をひらきます。 
 
●絵の前に立つと、こちらが見ているのではなく描かれている瞳にこちらが見詰められて包み込まれているような錯覚に陥ります。
松永:気力、体力が湧き上がるときに制作すると、そうなりますね。描いている自分が包まれる感覚、「体感」があると作品が成功したと思います。
 
 
●見る者が見詰められている、まるで画面が生き物のようですね。
松永:時間を瞬時に止めてしまう写真に較べて、絵画は時間そのものを表現することができます。自分が鑑賞者として他の作品を見る際も、「生きた画面」である作品を探します。自分の作品が「生きた画面」であり、それが作用することも私は欲しています。

●顔が大きくて肩が狭い、この対比は私達が普段会話している時、無意識に感じるサイズのような気がします。ですから松永さんの作品と向き合っていると、画面の中の少女達と「対話」している感覚がします。
松永:そのように「生きた画面」を見る人が感じて戴けると、嬉しいです。
 
 
●モノトーンの世界観であるのに、中国の墨絵のような多色的な感覚を受けます。
松永:白とは光の反射なのですよね。ですから作品を自然光で見ると随分違ったものに見えるのですよ。作品によっては虹色に見える場合があります。なぜそのようになるのか、自分でも分からないのですけれどね(笑)。

●それで墨絵にも見えるのですね。どのように制作なさっているのでしょうか。
松永:綿や麻を支持体に、日本画の画材である水干の黒を油で溶かして描いています。2000年頃は紙を支持体に、胡粉と黒の岩絵具を膠で定着させていました。しかし保存が上手く利かなかったのです。それで次第に現在の方法を見つけていったのですね。
 
●変わった制作方法ですね。日本画出身なのですか。何処で何方に習ったのですか。
松永:完全な独学なのですよ。高校がデザイン科で、そこでは「習った」とはいえない程度でした。絵画教室も大学も行っていません。小さい頃から描くことはとても好きでした。


●なるほど、だから自由に発想して自分のイメージにあった制作方法に辿り着けるのですね、感銘を受けます。学閥に寄りすがる現在、どうやって個展まで上り詰めたのですか。
松永:名古屋の六古窯で有名な常滑という地域の画廊で、陶芸の作家さんと多く知り合いました。陶芸ですからグループ展を行なうと壁面は空く訳です。そこに私の絵画を展示させて戴きました。別に仕事を持っていたので片手間というわけではなかったのですが、30代後半で本格的に活動を開始し、公募に応募して入選したり、個展を開催したりしました。東京の個展は今回が初なのですよ。
 
 
●凄いキャリアがあって現在の絵画動向に見合った作品に仕上げているのかとwebでみて感じていました。失礼致しました。やはり作品はナマで見なくては分かりませんね。陶芸との関わりが墨のような和的でモノトーンの世界の原風景を生んでいるのかも知れませんね。形も河原温のようでもなく、絵画的というよりも陶器のようです。
松永:そうですかね、自分では意識していません。絵を描くのは子供の時から好きでしたが、偉大なアーティストの作品を見るよりも、ロックを聴くことの方が好きでした。

●どんなロックですか?
松永:とりわけ60年代のイギリスのロックが好きですね。レッド・ツェッペリンとか、ジミ・ヘンドリックスとか。高校時代には学校全体でロックが盛り上がったのです。名古屋に輸入レコード屋が一軒だけありまして、皆で足繁く通っては購入し、聴き合って話が盛り上がりました。ともかく聴きまくりましたね。60年代の熱気はレコード=記録としても感じることができます。そのような熱気が私は好きです。そういうものを画面から感じませんか?
 
 
●なるほど絵画のみならず「音楽」という松永さんの生活に密着した、普段から体感なさっていることが絵画に盛り込まれているのですね。60年代の熱気とは正に「ホット」な現象で、現在のサンプリングミュージックのような「クール」な音楽では味わえない手作りの感触を受けます。それは、正に極彩色の、例えばCGとか煌びやかな日本画と対照的なモノトーンの画面が主張していますね。モノトーンにこだわる理由は何ですか?
松永:独学ですので、色の探求は自然と単色になってしまいました。

●先程、白は光だと仰っていましたね。ですから、単色といっても実は複雑な色彩が内在化されているのですね。これは現在の絵画動向に、とてもマッチしながらもそれを凌駕する可能性を秘めている気がします。マルレーネ・デュマスや加藤泉はご存知ですか?
松永:加藤泉さんの作品からは、人間の、生きものとしての所在みたいものを感じました。表現者として共感するところもあります。私は40歳を越えてしまったので、「新人」ではないのですよ…。普通に会社員をしながら、普通に絵画を制作していたのですが、ある時に自分なりのきっかけを得て制作に専念する様になりました。
 
 
●ではVOCAには出せないのですね…。画面が小さくても絵に引き込まれていきます。すごい美人でもなく、性的な魅力を持つ訳でもなく、しかし透明でもなく…。個々がそこに立っているような女性たちにモデルは居るのでしょうか。
松永:モデルは居るのですが、ポーズを取って貰ってイーゼルを立てて描くことは決してしません。スケッチ程度で留め、私自身の中に残ったイメージを育てていきます。そのイメージとはやはり「眼差し」なのですね。

●「眼差し」とは何でしょうか。
松永:「眼差し」というか、「雰囲気」、「佇まい」といったほうが正確なのかも知れません。その「佇まい」とはモデル本人が発しているものなのか、私が受け取っているものなのかは、定かではないのですね。

●多くの女性を描いていらっしゃるのですが、エロスやレトロを感じず、人間そのものの「眼差し」を感じます。背景もイメージなのですか。
松永:実はどこであるかは特定できるのですね。しかし、「佇まい」のトーンを整えるために調整しています。

●女性のみならず、動物や昆虫も描かれていますね。
松永:元々動物を描くほうが好きなのですよ。子どもの頃から描いているので、実際に取材をしなくても直ぐに描けるのです。
 
 
●「デッサンをしない」というのではなく、体の中に棲みついている(笑)。
松永:そうです(笑)、それで人間を描こうと思うと、自ずと女性か子供になってしまう。

●だから老人と男は描かないのですか。
松永:そう考えると、男の代わりに動物を描いているのかも知れませんね。今、気がつきました(笑)。

●これからはどのような作品を描きたいですか。
松永:今回出品した作品はサイズも小さいですし、構図も単純です。その分思い入れが込められやすいとは思いますが、「佇まい」を残しながら複雑にして大きなサイズの中で人の数も増やしたい。
 
 
●現在の作品でも充分に面白いのですが、その発展意欲がこれからの作品を楽しみにしてくれます。
松永:大きな画面で複数登場させると、「佇まい」のトーンを整え、画面を調和させなければならない。その作業は大変なことですが、挑戦したいのです。
 
(銀座・十一月画廊にて取材/宮田徹也)  

 

松永 賢(まつながけん)
1966年 愛知県生まれ
■主な画歴
2002年 エプソンカラーイメージングコンテスト/入選
2003年 同/佳作 2004年 西脇市サムホール大賞展/大賞(西脇市岡之山美術館/兵庫県)
2006年 名古屋の美術これまでとこれから/入選
2006年 (名古屋市美術館)
2006年 あさご芸術の森大賞展/大賞
2006年 (あさご芸術の森美術館/兵庫県)
2007年 とよた美術展/優秀賞(豊田市美術館)
 
  ■個展
2005,2007年 ハートフィールドギャラリー/名古屋
2005,2006年 ギャラリー安里/名古屋
2005年 TO'Sギャラリー/常滑
2006年 ギャラリー共栄窯/常滑
2006年 西脇市岡之山美術館/兵庫県

■グループ展
2007年 それぞれの空間表現/岐阜県美術館
2007年 ノリタケの森ギャラリー/名古屋市