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■岡山と博覧会
昭和初期になると全国の物産を展示する博覧会場は、生産者が情報を得る勧業の場という目的を維持しつつも、来場者に豊かな消費生活を予感させる場にもなった。展示館には最新のモダンなデザインを採用、イルミネーションの類が夜間開場の美観に花を添えた。
また博覧会場は、多くの人々を都市に誘う観光集客の場という役割も高める。主催者は多く入場者を集めるべく、会場内にさまざまな余興を用意した。家族連れの客を呼び込む意図もあったのだろう。曲技や子供向けの遊戯場などを用意する例も稀ではなくなった。 
年号が昭和になって以降、広島や岡山など中国地方の中心都市でも、大規模な博覧会があいついで実施されるようになる。なかでもおおがかりな事例が昭和3年(1928)に実施された「大日本勧業博覧会」である。月20日から5月18日までの2ヶ月間の会期中に、岡山練兵場・東山公園・鹿田駅跡の三会場に133万3282人もの入場者を集めた。
岡山で産業振興を目的とする博覧会を実施したいという機運は大正の末頃から高まったようだ。大正15年4月の岡山市商工協会幹事会に諮られていたが、2年後に市制施行40周年を迎える時期にあって、伯備線の開通、都市計画の施行と旭川の改修などとあわせて、発展する岡山市勢を対外的にも示そうという意図があったようだ。各地からの出展に加えて、満蒙、台湾、朝鮮、樺太、南洋などの外地や委任統治地の物産を網羅することが企図された。博覧会の名称に「大日本」という冠をつけたあたりに、主催者側の意欲を感じることができる。
主催者である岡山市役所が発行した案内図の表紙は、岡山城と後楽園、丹頂鶴の絵柄である。一面に岡山市を中心に全国を網羅する鳥瞰図、裏面に会場の俯瞰図を印刷する。 |
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| 『岡山 大日本勸業博覧會』表紙 |
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「岡山市を中心とせる交通圖繪」 |
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「岡山市主催 大日本勸業博覧會場全景」 |
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各会場ともに噴水を設けた広場に面するように、各展示館が配置されている。練兵場に仮設された第一会場には、本館のほか、農水産館、林鉱館、機械電気館など、主題を定めた陳列館が用意された。また岡山別館、京都館、北海道館、八幡製鉄所特設館、満蒙館、朝鮮館などの単独出展もあった。さらに野外劇場、音楽堂、水族館、演芸館、小供の国など、余興のための施設も設けられた。第二会場となった東山公園には教育館・参考館・美術館、第三会場には中央館・衛生館などが配置された。
博覧会を宣伝する媒体にも、モダンな展示館のならぶ会場風景が登場する。瀬戸内海の地図や天守閣やモダンなビルディング群を柄として、各会場や後楽園の写真やイラストを配置するデザインの絵葉書も発行された。 |
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「主催 岡山市 大日本勸業博覧會」 |
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後樂園 |
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第一會場 |
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第三會場 第二會場 |
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■博覧会の流行
「大日本勧業博覧会」の成功を受けて、岡山では「博覧会」と称するイベントが流行したようだ。昭和7年に「岡山観光博覧会」、昭和8年に「中国新報社40周年記念非常時博覧会」、昭和9年に「全国工芸博覧会」、昭和11年に「姫新線全通記念乗り物大博覧会」というように、岡山城内や東山公園を会場として、5年間に4回の博覧会が行われている。 |
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「岡山勸光博覧會(南北両舘正門)」 |
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「岡山勸光博覧會(北舘入口)」 |
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「岡山勸光博覧會 (迎賓舘ヨリ北舘一部ヲ望ム)」 |
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「岡山勸光博覧會
(爆彈三勇士模擬戰)」 |
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| 「全國工藝博覧會」 |
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「非常時博覧会」は40周年を迎えた中国新報社が主催、岡山城天守閣を展示場とした。国際連盟からの日本の脱退について解説する資料の展示が中核であった。そのほか神代より現在に至る国難を示す絵巻、秀吉の朝鮮出兵にちなむ品々、赤穂義子の連判状、大石蔵之助の暇乞い状、京都大学解剖学部教室が出品した入れ墨のある犯罪者の皮膚標本、国定忠治の煙草入れや雨合羽、浜口雄幸が銃撃された際に着ていた外套や弾痕のあるチョッキ、犬養木堂遺品の単衣、日支事変での戦没者の遺品や千人縫、爆弾三勇士や勤王志士の写真など、さまざまな品物が、「国難」「非常時」にちなむ文物として展示された。 
「全国工芸博覧会」は岡山市が主催、東山公園などを会場として、3府32県の特産や工芸品など3万点ほどが出品された。水族館や工芸館、朝鮮館、余興館なども用意された。歴史的様式の六角堂を模した朝鮮館は、総督府が1万円を投じて建設した本格的な建物である。県の水産会が協賛した水族館では、あざらしや山椒魚が人気を集めた。余興ではドイツ人カール・ライトネルの「人間大砲」の演技や、ロシア人による鋸音楽、ポーランド人ダンサーの妙技があり喝采を浴びた。
続く「姫新線全通記念乗り物大博覧会」も岡山市が主催、東山公園が主会場となった。イベントのタイトルどおり、馬、牛、牛車、輿、駕籠、大井川の渡船用具であった蓮台、人力車、馬車鉄道、電車、橇、自動車、旅客機など、天尊降臨の神代から当代に到る乗りものの変遷を展示した。各国の戦車や軍用飛行機の現勢を示したジオラマや、炸裂する砲弾のなかを兵士が進軍する近代戦の大パノラマが人気となった。本館では、明治天皇が愛用された馬上盃や、大正天皇が幼少期に愛玩された乗馬人形なども特別出品された。参考館には、飛行機、タンク、飛行船、パラシュート、軍艦など軍用の乗り物が展示された。特設館には内外の自動車が多数陳列されたほか、無線で動く航空母艦「赤城」の模型も話題となった。市内では歴史的な風俗を再現、お囃子つきで練り歩く行列が、博覧会の余興として行われた。
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■広島と博覧会
広島市も、昭和になって本格的な博覧会を実施する。昭和4年3月20日から5月13日を期間に実施された「昭和産業博覧会」である。
広島城に隣接する西練兵場を第1会場、比治山公園を第2会場、向宇品に第3会場が設けられた。主会場である西練兵場には、本館のほか、機械館、化学工業館、貿易館、産業館、特許発明館、物産館、農水産館、園芸館、林鉱産館などが並び、各種の物産を展示した。毎日新聞社提供の人造人間、日光館に陳列された東照宮の大模型、中国新聞社が提供した御大典のジオラマ模型などが人気を集めた。比治山の第2会場には陸軍参考館が設けられ、乃木将軍の遺品や空中戦のキオネラマの展示があった。向宇品の第3会場には、軍艦の外観をした海軍参考館や水族館が設けられた。
博覧会場の様子は、当時、配布された案内図や絵葉書の類に詳細に記録されている。ポスターを図案化した絵葉書には「昭和博には御家族御揃ひにて御来遊の程御待ち申してゐます」と記されている。会場写真だけではなく、厳島神社など県下の名所や清酒や牡蠣舟などの名物を、博覧会場と併せて図案化した絵葉書もある。 |
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『廣島市主催 昭和産業博覧會鳥瞰図』 |
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「廣島市内及附近名所交通案内圖」 |
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| 「廣島市鳥瞰 昭和産業博覧會會場分布圖」 |
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『廣島市主催 昭和産業博覧會 記念端書』 |
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「廣島市主催 昭和産業博覧會」 |
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「廣島市主催 昭和産業博覧會記念」 「門正」「會場全景」 |
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「昭和産業博覧會 廣島市主催」 「厳島」「宇品港」 |
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「昭和産業博覧會 廣島市主催」 「比治山舊御便殿」「舊大本營」 |
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「昭和産業博覧會 廣島市主催」 「饒津神社」「淺野家泉水縮景園」 |
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「廣島市主催昭和産業博覧會(第一會場)」 農村地域文化住宅 |
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「廣島市主催昭和産業博覧會(第一會場)」 郷土舘・農水産舘 |
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「廣島市主催昭和産業博覧會(第一會場)」 朝鮮舘 |
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「第一會場 満蒙舘)」 |
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「第一會場台湾舘並ニ北海道舘」 |
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「第一會場小供の國おとぎの汽車」 |
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「第一會場イルミネイシヨン」 |
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「廣島市主催昭和産業博覧會(第二會場)」
比治山・陸軍参考舘 |
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「第三會場水族舘」 |
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「第三會場海軍舘」 |
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会場内には農村地域向けの文化住宅の出品もあった。社殿風の御大典記念館、モダンなデザインの郷土館、ビール瓶の広告塔が特徴的なキリンビールの売店など、個々の展示館や売店のデザインは実に個性的だ。台湾館、北海道館、樺太館、民俗建築を意識した外観の満蒙館や朝鮮館など、地域ごとの単独館もあった。娯楽施設としては、広島踊りや余興を見せる演芸館と野外劇場、巨大な桃太郎像の奥に、お伽噺の汽車や象の滑り台のある子供の国があった。夜にはイルミネーションが灯り、広島電気や生命保険会社協会の電飾塔が夜空に明るく浮かび上がった。
博覧会場は、都市内に出現した「モダン都市」であった。仮設であるがゆえに、斬新な趣向の導入や、従来にない風景の創造に意欲的に取り組む姿勢を見ることができた。 |
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橋爪紳也(はしづめ・しんや)
1960年大阪市生まれ。大阪府立大学21世紀科学研究機構特別教授。大阪府立大学観光産業戦略研究所長。大阪市立大学都市研究プラザ特任教授。建築史・都市文化論専攻。工学博士。京都大学工学部建築学科卒業、京都大学大学院工学研究科修士課程・大阪大学大学院工学研究科博士課程修了。
著書に『明治の迷宮都市 東京・大阪の遊楽空間』(平凡社・筑摩書房)、『大阪モダン 通天閣と新世界』(NTT出版)、『日本の遊園地』(講談社)、『祝祭の〈帝国〉』(講談社選書メチエ)、『飛行機と想像力 翼へのパッション』(青土社)、『モダニズムのニッポン』(角川選書)、『「水都」大阪物語【再生への歴史文化的考察】』(藤原書店)ほか多数。 |
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