トップ   世界最高の浮世絵が眠るスポルディングコレクション 文=小林忠氏

 ボストンの大富豪、ウィリアム・スチュアートとジョン・テイラー・スポルディング兄弟が1921年にボストン美術館に寄贈した約6500枚の上質な浮世絵版画は、寄贈の際、同美術館の外に出すことはもとより、公開展示を禁止するという条件が付けられ、その条件のもとで今日まで80年以上にわたり保存されてきました。
 保存と公開という宿命をもつ美術品は、保存に完ぺきを期すれば、公開して後世の文化の形成に役立てるという役割を放棄しなければならなくなります。その役割をあえて失う特殊な条件を付けた浮世絵コレクションであるがゆえに、「浮世絵の正倉院」ともいえるものになりました。
 正倉院(校倉宝庫)は勅封(天皇の命令がなければ開けない)という厳しい管理のもとに、8世紀から多数の美術品が収蔵され、それらは21世紀の今日に至るまで非常に良好な状態で大切に守られてきました。スポルディング・コレクションも展示を禁止されたことで、光を遮断した低湿度の管理によって、虫やカビの害からもまぬがれて、作品の劣化をほとんど避けることができました。
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スポルディング・コレクション 他の作品 スポルディング・コレクション 他の作品
歌撰恋之部 物思恋  大判 寛政5(1793)年頃
Photograph ©2008 Museum of Fine Arts,Boston. All rights reserved.
William S. and John T.Spaulding Collection,1921 21.6415
当時三美人  大判 寛政5(1793)年
Photograph ©2008 Museum of Fine Arts,Boston. All rights reserved.
William S. and John T.Spaulding Collection,1921 21.6382
 
 ウィリアムとジョンは、1909年に日本を訪れたことをきっかけに浮世絵の収集を始めました。大森貝塚を発見したモースや、日本美術の優秀さを教えてくれたフェノロサ、大富豪のビゲローらが次々と来日して、浮世絵版画の美を認める雰囲気がつくられていたころです。
 スポルディング兄弟は、当時、帝国ホテル(旧館)の設計のために日本に滞在していた建築家、フランク・ロイド・ライトを通じて浮世絵を購入しました。ライトの優れた審美眼で選択された絵は次々と兄弟のもとに届き、後にボストン美術館という理想的な蔵の中に納まって眠り続けていくことになります。おそらく、世界の浮世絵コレクションの中で最も無傷で美しい色鮮やかな浮世絵が集まったコレクションである、といっても過言ではないでしょう。
スポルディング・コレクション 他の作品 ボストン美術館外観
娘日時計 午ノ刻  大判 寛政6(1794)年頃
Photograph ©2008 Museum of Fine Arts,Boston. All rights reserved.
William S. and John T.Spaulding Collection,1921 21.6547
 寄贈者の遺志を尊重し、契約を守るということに非常に厳格なボストン美術館ですが、作品に影響を及ぼさないデジタル技術などによる新しい方法で、このコレクションを多くの人に公開しようという決断をしました。作品に光が当たらないように注意深く撮影したデジタル画像がボストン美術館のウェブサイトに掲載されて、世界中の人々がアクセスし作品を閲覧できるようになりました。
 デジタル画像は一回の撮影でいろいろな用途に使えるわけで、印刷技術を駆使した精巧な複製画を制作すれば、摺り彫りの状態をほぼ完全に紙媒体に再現することもできるようになりました。現物の鑑賞が不可能な作品を、このような方法で多くの人々が鑑賞できることは、たいへん喜ばしいことだと思います。


『スポルティング・コレクション歌麿』解説書より転載